「価格」と「品質」でよりよい社会資本の整備を推進
技術と経営に優れ、地域に貢献する企業に
地方自治体の総合評価導入策  「市町村向け簡易型」など検討
 国土交通省九州地方整備局  芦田義則企画部長


九州地方整備局・芦田義則企画部長

 国土交通省九州地方整備局は、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が平成17年4月1日に施行されたことに伴い、価格と技術力を総合的に評価して落札者を決定する「総合評価落札方式」の適用を開始し、「価格競争」から「価格と品質で総合的に優れた調達」への転換を図っている。
 18年度は、一般競争入札方式と総合評価落札方式を拡大。総合評価にあっては、高度技術提案型総合評価方式や簡易総合評価方式(Bタイプ)など、新たな総合評価落札方式の試行を導入し、より充実した総合評価に取組んでいる。
 一方で、低入札調査基準価格を下回る受注工事が17年度末から急増し、国土交通省では18年11月に「緊急公共工事品質確保対策」の第2弾を発表。これを受け同整備局では、昨年末から「特別重点調査」と「施工体制確認型総合評価」の試行を開始し、更なる工事品質の確保に努めている。
 このように18年度は、入札・契約制度において大きな変革が行われた。同整備局の芦田義則企画部長に試行等の取り組み状況や、今後の展望などを聞いてみた。

――平成17年4月から「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が施行されましたが、それを受けて、九州地方整備局ではどのような取り組みを行ってきましたか
 「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以後「品確法」という。)は、良質な社会資本を後世に残すため、公共工事において品質確保を促進するべく、整備局に対し、大きくは2つのことの実行を求めている。1点目は、「価格競争」から「価格と品質で総合的に優れた調達」を行うこと。2点目は、全ての発注者が発注事務を適切に実施できるよう支援することである。
 「価格と品質で総合的に優れた調達」を行うことに関しては、総合評価方式の拡大が主たる施策になっている。品確法の閣議決定の少し前に、橋梁談合事件を受けての入札談合の再発防止対策として一般競争の採用、総合評価方式の採用が打ち出されたことを受け、平成17年10月から一般競争と総合評価方式の組み合わせを基本として拡大を図っている。
 平成18年度は、一般競争入札は全発注金額の80%以上、総合評価方式は全発注金額の2%以上を目標としてきたので、その目標をクリアするよう拡大を図ってきた(表―1)。
――一般競争入札、総合評価方式の拡大を図ってこられたということですが、どのような変化があったとお考えですか。それらは望ましい方向になってきているのでしょうか
 入札契約の手続きを公正に行うこととか、その手続きを透明にすることは従来から取り組んできたところだが、一般競争入札を拡大することで競争性・透明性が向上し、より判りやすくなったのではと考えている。一方、総合評価方式は、品質の確保、技術力の競争という面で効果が出ていると考えている。
 具体的な分析はまだ十分できていないが、一般競争では一定の要件を満たせば参加が可能であるため、従来、指名に入れなかった会社も参加でき、入札に参加する会社の数は増えているのではという印象を持っている。
 しかし、個々の工事で応札者数が極端に増えるという現象は起こっていない。応札者が比較的多い工事と少ない工事、極端な場合は応札者がない工事や落札者がなく不調となる工事が出るなど、工事の内容を斟酌(しんしゃく)して応札される状況に変わってきていると思う。利益が見込み易い工事と、そうでない工事で応札者数が変わるというのは市場原理からすると普通の事柄なのだろう。結果、一般競争での平均応札者数は減少傾向にある。
 次に、総合評価方式に関しては、平成17年度は全工事件数の7%程度で実施した。平成18年度に入って実施対象範囲を拡大し、下半期から原則として全ての工事で総合評価を実施している。平成19年2月末までには約1300件実施した。
 平成18年度当初からは、品質面での競争を強化する観点から、平成17年度より加算点満点を引き上げて運用している。17年度には20点以上のケースが1割程度だったが、18年度には9割が20点以上となった。結果、落札者が最低価格の者ではない事例は、17年度は約7%だったが、18年度は12%となった(表―2)。
――総合評価方式ではどのようなことを評価されているのですか。評価内容の見直しは考えているのですか
 品質を確保する技術的能力、構造物の品質向上に関する提案を審査することが基本だが、2億円以上の工事に適用する標準型とそれ以下の工事に適用する簡易型では評価事項が若干異なっている(表―3)。
 標準型では、性能の向上、環境の維持や特別な安全対策など、社会的要請に関する技術提案に重きを置いて評価している。
 一方、簡易型では、簡易な施工計画、配置予定技術者の能力、企業の施工能力を審査するようにしている。技術者や企業の能力評価は、過去の成績に重きをおいて評価している。このため良い仕事をした技術者や企業は、より落札の機会が大きくなる。
 また、企業評価には工事毎に選択できるオプション評価項目を設けている。オプション項目の例としては、災害時対応の活動実績、技術開発の実績などがある。
 評価の公正さを担保するため、20名の有識者で構成される総合評価技術委員会を設置している。同委員会の委員には、全ての個別発注工事案件について、評価項目を決定する前の時点と提案を評価して加算点を決定した後に2名当番で審査して頂いている。
 この2年間に総合評価の評価項目や方法は、概ね固まってきたが、まだ見直しの余地はあると思う。見直しの基本は、社会資本の確かな品質を確保することに合わせて、技術と経営に優れ、地域に貢献する建設会社の発展につながる形になるようにしていくこと。実績の分析、建設業界や総合評価技術委員会の意見などを踏まえ、良い方向に見直していきたいと考えている。
――低入札が増えているのではないでしょうか。低入札の悪い点はありますか
 整備局の直轄工事での低入札は、平成16年度は1・9%だったが、平成17年度は6・7%と割合が高くなり、平成18年度は12月末までで10%になった。特に、工種が鋼橋、PC橋、建築、電気設備、冷暖房設備などで割合が高くなっている。
 技術的な工夫をベースにしたコスト縮減の方策を講じた結果として低入札になったのであれば、それは好ましい結果。しかしながら、それに該当すると認識できる説明はほとんど無く、資材業者や下請業者の協力、あるいは自社の必要経費節減といった理由で、低価格入札が行われているケースがほとんど。このような場合、構造物の品質低下や下請、労働者へのしわ寄せ、安全対策の不徹底など、悪影響の懸念が強くなる。実際の所、落札率が下がるほど工事成績が低くなる、下請け企業の赤字が増大するという調査結果もある(図―1図―2)。

――低入札に対し、どのような対策をとられているのでしょうか
 このような低入札への対応として平成18年4月には、低入を行った場合は受注者側の専任技術者の増員、安全管理のモニターカメラの設置などの施策を実施してきたが、十分な効果は得られなかった。
 そこで、昨年12月に「緊急公共工事品質確保対策」が通知され、本通知に則り、2億円以上の12月以降の公告工事については施工体制確認型総合評価方式とし、1月開札分からは特別重点調査を始めている(表―4)。
 2月末までに施工体制確認型は17件が対象となり、2件の工事で低入札が発生した。一方、特別重点調査は47件が対象となり、基準額以下の入札は4件だった。このうち、3件では求める資料の提示がされなかったため、当該者の入札を無効とし、あと1件は調査中である。
 この結果、2億円以上の工事については、施策実施前の11月には全ての工事で低入札であったのに対して、1月から2月の低入札は17%にとどまっており、低入対策として一定の効果があったと考えている。
――高度技術提案型は試行されたのでしょうか。何をどう評価したのでしょうか
 高度技術提案型は今年度に2件試行した。1件は橋梁工事で施工場所と基本的な諸元だけを規定して、橋梁形式は自由に決定できる設計・施工一括発注を行った。加算点の満点は50点で、概略の橋梁パース図も提出してもらい、維持管理に関する技術的所見、構造体の疲労に対する耐久性、構造体の環境に対する耐久性、景観、施工中の環境の維持や安全対策などを評価項目とした。
 提案の評価は学識者による本工事のみを対象とする委員会を設けて実施している。7社から応募があり、うち6社はPC橋で、1社が鋼橋。PC橋ではスパン割やデザインは同じではなく、多様な提案を頂けたと考えている。
 別の1件は、軟弱地盤での基礎設置を含む排水機場の建設工事で、加算点満点は50点。耐久性コンクリートの向上対策、施工中の騒音・振動・水質汚濁防止対策などを評価項目としている。中でも、軟弱地盤基礎工事における騒音・振動の低減に関する提案の重みを増して審査した。結果は、評価点1位、入札額最低の会社が落札者になった。
――総合評価方式の今後の展望をお聞かせください
 低入札が行い難い状況になると、真に価格と品質での競争になると期待できる。施工体制確認型や特別重点調査を始めたことで、そのような環境に近くなってきたと思う。価格と品質のバランスという点では、加算点のウェイトをもう少し上げてよいかと考える。とはいえ、仕組みとしてはまだ未熟な部分もあろうかと思うので、各方面の意見を聞きながら良い仕組みに育てて行きたいと考えている。
――総合評価方式における地方公共団体への支援策をお聞かせください
 総合評価方式は、地方公共団体も含めて全ての発注者で採用されることが必要。しかしながら、発注者の体制が不十分な自治体も多いため、発注者を支援する体制を整備することは「公共工事の品質確保に関する法律」の目的の1つになっている。このため、九州地方整備局、九州各県・政令市で組織する「公共工事の品質確保に関する九州連絡協議会(会長・九州地方整備局長)」を設置し、国・県・市町村が連携しながら各種の施策を実施している。
 法律の附則では、「施行後3年後、本法の施行状況等について検討し、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」。また、基本方針では、「政府は、各発注者における法及び基本方針に示された公共工事の品質確保に関する基本的な実施状況について調査を行うとともに、その結果をとりまとめ、公表する」とされている。よって、法施行後の3年目にあたる平成19年度は、重点的に支援措置を実施して一定の成果が得られるようにしたいと考えている。
 先般、協議会の委員の皆様の同意を頂き品確法に基づくアクションプランを決定し、平成19年度の取り組み事項を明らかにした。内容的には、各自治体で最低1件は総合評価が試行されることを目指して各種の支援を実施することとしている。
 一方、知事会では、平成18年12月に「都道府県の公共調達改革に関する指針」(緊急報告)がまとめられ、一般競争入札の拡大、総合評価方式の拡充が謳われた。これを受けて各県でも入札契約制度の改革が急速に進められることになると思うが、一般競争だけが先に進むと良い調達ができなくなる恐れがあるので、個別の事情も聞きながら具体的に入札契約制度の改革の実施を支援して行きたいと考えている。
――市町村が実施しやすい総合評価の方法はありますか。簡易型総合評価(Bタイプ)の試行を実施されているほか、市町村向け総合評価等の導入策を打ち出していますが
 簡易型総合評価(Bタイプ)は、今後の市町村等での利用も考えて通常の簡易型をさらに簡易な形にしたもの。施工計画の重みを下げヒアリングも省略できるようにしている。また、工事成績が無くても使用できるようにしている。
 平成19年2月末までに6000万円以下の工事108件で実施した。施工計画の相対評価に苦労することはあるようだが、通常の簡易型と同様に機能しており、事務手続きの簡素化もできていることが判ったので、各自治体にも紹介していきたいと考えている。
 また、市町村での導入促進のため、国土交通省では、18年度内をめどに「地方公共団体向け総合評価(市町村向け簡易型)実施マニュアル」を作成している。本マニュアルでは「市町村向け簡易型」の総合評価方式の検討が進められている。マニュアルで提案している方法は、九州地方整備局の簡易型(Bタイプ)に似ているが、施工計画を求めず、同種・類似工事の施工実績など企業の能力、配置予定技術者の能力、防災協定に基づく地域貢献、その他(手持ち工事量)で評価する方法。Bタイプより簡易な方法になっているかと思う。
――CALS/EC、電子入札の展開状況をお聞かせください
 国土交通省は、平成8年に建設CALS整備基本構想を策定し、CALS/ECの取り組みを積極的に実施している。現在では、平成13年に策定された「国土交通省CALS/ECアクションプログラム」に沿った取り組みを行っている。主な内容は、@入札情報サービスの運用A電子入札の実施B電子納品の実施C情報共有の試行実施D電子納品・保管管理システムの導入―がある。
 入札情報サービスに関しては、発注予定情報、入札公告、入札説明書の交付、入札結果などの情報をインターネットにより取得できるようになっている。
 また、電子入札に関しては平成15年度から工事と建設コンサルタント業務について本格運用を開始しており、平成17年からは、物品、役務についても可能となったほか、技術資料の提出、入札書の送付、開札、結果通知等の入札手続きができるようになっている。平成17年度で電子入札者の割合は7%に達している。
 電子納品に関しては、電子納品の対象規模を徐々に拡大し、平成16年度から全ての工事・業務に関する成果品が電子納品対象となった。電子成果品を保管管理システムに蓄積することにより、図面等を迅速に引き出すことが可能となる体制を整備しつつあり、維持管理での利用が始まった。
 工事中の情報共有は、打ち合わせ協議や段階確認時などにおいて、受発注者間で交換する各種情報を共有サーバに保管し運営することで、情報管理の効率化、意志決定の迅速化、事業執行の効率化を目指すもの。九州地方整備局では平成15年度に試行を開始し、今年度は2事務所で試行を実施している。
――随意契約の適正化についてお聞かせください
 随意契約は、契約の性質や目的が競争に付すことができない場合、競争に付すことが不利と認められる場合、緊急の必要により競争に付すことができない場合などに締結することができることになっている。これらの規定に沿って随意契約を真にやむを得ないものに限定するべく、平成17年度後半から随意契約の見直しが始まった。
 平成18年3月末には国土交通省より「建設弘済会への委託業務の適正化について」が発表され、「民間でできることは民間にゆだねる」との基本的視点に立って業務発注を見直すことになった。また、政府全体で随意契約の適正化を図るべく設置した「公共調達の適正化に関する関係省庁連絡会議」において、「随意契約見直し計画」が平成18年6月に策定された。
 九州地方整備局では、これまで建設弘済会等に委託していた監督補助業務の内から民間でも実施可能な部分を切り出し、監督関連の資料作成業務として直接民間に発注する見直しを、昨年4月より開始した。また、昨年10月からは高度な専門性や公平性、中立性等が必要であるため、公益法人に発注することが必要と考える業務については、発注者が特定した公益法人以外の参加者の有無を確認する公募手続きを導入した。公募により参加表明者があった場合は、企画競争(プロポーザル方式と同様の手続き)を行うことになる。公募手続きにおいては、業務の要件と特定理由を明示するようにしている。
 これらの手続きについては、学識者で構成される入札監視委員会でも説明し、適正な執行が行われているか確認するようにしている。
――最後に、コンサル業務における一般競争、総合評価の導入についてお聞かせください
 業務契約では指名競争が6割強、残りがプロポーザルと随意契約になっている(表―5)。平成18年度には随意契約に関する見直しを行ったため、プロポーザルが増えて随意契約が減っている。平成19年度はさらに随意契約は減少する。また、平成18年度には指名競争、プロポーザルとも簡易公募型を拡大すべく基準額以下についても試行を行った。19年度には、さらに基準額を引き下げて簡易公募型を適用することを予定している。
 また、コンサルタント業務の総合評価方式ついても試行を予定しており、1件は公表済みである。この1件は道路の詳細設計で、周辺の既存施設に配慮した構造の検討と同施設に配慮した施工計画を技術テーマとする予定で、価格点対技術点は、1‥2を考えている。
 コンサルタント、測量、地質の業務でも低入札が目立ってきている。平成18年度に予定価格の70%未満で落札した件数は約7%。実績づくりが目的かもしれないが、50%未満というのも1・5%程度ある。コンサルタント業務等についても低入札調査価格制度の導入が必要な時期ではないかと考えている。
2007.03.19掲載

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