『黒川温泉地区』 美しいまちなみ大賞に輝く          平成20年7月7日新聞掲載
住民と行政が「日本の田舎」を演出


 阿蘇郡南小国町の黒川温泉地区が平成20年度の都市景観大賞「美しいまちなみ大賞」(国土交通大臣表彰)に輝いた。地域住民と行政が一体となって景観の形成、環境づくりを進め、「日本の田舎」「山里の風景」を演出。全国から年間100万人以上の観光客が訪れる温泉街へと成長を遂げている。黒川温泉観光旅館協同組合の後藤健吾氏とまちづくりコンサルタント・環境アドバイザーの徳永哲氏(潟Gスティ環境設計研究所、福岡市)に受賞に至った経緯や今後の展開などを聞いた。

徳永氏:緩やかな統一感で持ち味を引き出す
後藤氏:町全体を意識した経済循環型の旅館に
――まちづくりに取り組むきっかけとなったのは
 後藤 黒川温泉は、地の利が悪いことから、県内でもあまり知られていない湯治場としての歴史が長かった。20年程前に、何かを変えなければと旅館組合の青年部が中心になり、山里の温泉らしい雰囲気≠目指し、行動を起こした。お金をかけず自然な姿を演出しようと、雑木の植樹から始め、徐々に活動の輪が旅館全体から地域住民(自治会)へと広がった。乱立していた看板や旅館の壁を統一したり、屋根の色を黒、こげ茶を基調とした色にするなど、町並みとの調和を進めた。
 平成に入り、客足は伸び始めたが、別荘地や店舗が増えるなど周辺地域の開発が進み、黒川らしい景観が損なわれるのではないかとの心配も出てきた。より良い形でまちづくりを進めるため、ソフト面の「街づくり協定」とハード面の「風景づくり事業」を柱にまちづくりを進めていった。

――具体的な取り組みの内容は
 後藤 街づくり協定は、地域住民が中心となり個人の土地や建物などの景観について協議し、ルール作りを行った。柵、塀、擁壁はできるだけ低くし、修景、緑化を進めるなど、こと細かく取り決めた。
 ハード面では、南小国町に「まちなみ環境整備事業」を黒川に適用してもらい、行政と一体となった景観づくりを進めている。多目的集会施設「べっちん館」の建設や川端通りの舗装改良、丸鈴橋の高欄、いご坂などの整備を行ってきた。
徳永 いご坂は、露天風呂めぐりで往きかう道であり、地元の生活の中で使う道。永く親しまれてきた坂で、黒川の「廊下」としての演出を施した。コンクリートだけで舗装された道だったが、旅館の入口にも使ってある黒い石を間に取り入れた。全部に敷き詰めると豪華になりすぎるので、控えめに使用し、道だけが主役にならないように配慮した。
 川端通りは、往還の宿場として古くから親しまれているメインストリート。そぞろ歩きの楽しさが増すよう配慮した。傷みのある路面改修では、アスファルトに石を混ぜて、石がほのかに浮かび上がるような質感に仕上げた。 
 丸鈴橋は、温泉街の中心部をかざる「田の原川」の眺めを楽しめる橋。橋上で立ち止まりたくなる雰囲気づくりを演出している。旧橋の老朽化により、架け替えることになったので、高欄の整備に取り組んだ。素材は、車も通るため、構造上、スチールを使うことになった。人が触る所には、出来るだけ木を使い、もともと赤色だった高欄も、川沿いの風景の中で目立ちすぎないように黒に統一した。

――整備する上での課題は
 徳永 地域も風景も生き物≠ネので、常に変化する。川端通りはたくさん人が通るので、出店したいニーズも多いようだ。これまでの経緯を知らない事業者が入ってくると雰囲気が変わってしまう。ハード、ソフトにしても黒川の雰囲気を大事にし、地元の方と一緒に取り組むことが必要ではないか。
 後藤 新しく何かを造るのではなく、今あるものを残す≠アとが重要になってくるのではないかと感じている。拡大を進めるよりも古い民家の土蔵など田舎の素晴らしい風景を残していきたい。

――統一感≠ニいう言葉がキーワードになっていますが
 徳永 統一感は必要だ。ただし、何でもかんでも同じように揃えるということではない。例えば、全員が同じ制服を着ているような状態では魅力がない。ある程度の統一感は必要だけれども、ある程度の緩やかさも必要で、それがないと面白みがない。統一するポイントは、その土地ならではの持ち味≠どれだけ引き出せるか。黒川温泉では、その中から個性も生まれ、親しまれ、魅力のある温泉街になったのだと思う。
――黒川温泉に今後求めることは
 徳永 最終的にはまちづくりは人づくり≠ノつきる。黒川のように一つの山を乗り越えたところでは、その魅力をどうやって維持し、次の世代に引き継ぐかが今後の課題。ゼロからのスタートで始めた世代の方とは違い、後継者は年間百万人訪れる観光地を引き継ぐことになり、大きなプレッシャーを受けることになるだろう。そういった意味から、風景づくりは、次の世代にとって、真の「おもてなし」を考えるテーマとして受け取りやすい。
 美しい自然があってこそ黒川。全体がひとつの魅力と感じられないとだめで、また黒川温泉だけ儲けようと思っても、長続きはしない。「黒川一旅館」の概念を黒川だけでなく、南小国町、小国郷全体で、大きな循環の輪ができるといいのだが。農業、観光、風景がより一体に感じられ、地域経済の循環に繋がれば、本当のまちづくりだ。黒川はその中核となる力を十分持っている。
 後藤 黒川が黒川だけでやってきた意識が強かったが、南小国町の色々な風景があって黒川があるという意識が少しずつ芽生えてきた。町に経済的な循環を創り出すような仕掛けをする、大事な時期に来ているのではないかと思う。
〜受賞に寄せて〜  南小国町長  河津修司
 黒川地区の取組みは住民の方々が自主的に行い、今日まで続いてきたものです。町はそのお手伝いとして街なみ環境整備事業を行っていますが、今回の受賞は、黒川温泉を訪れる方々へのおもてなしの心、またそこで生活される人々のもっと素晴らしい地域にしようという想いが、あるひとつの結晶となったものと言っても過言ではありません。
 黒川温泉の取組みが様々な分野から目に見えるかたちで評価され始め、昭和の終わりから始まった景観に対する活動が20年以上の歳月をかけて実を結んできたことを考えますと、黒川地区やその関係者の方々の地道な努力とその弛まぬ意志が、今回の受賞に結びついたものとしてたいへん価値のあるものではないかと考えます。今後もますます黒川地区の発展におきましては協力と賛辞を惜しまず取組んで参りたいと思います。

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