全国建設関係行政書士協議会主催、西日本建設新聞社など後援  平成19年4月19日新聞掲載
 全国建設関係行政書士協議会(建行協、亀井保代表世話人)は4月13日、熊本全日空ホテルニュースカイで「経審見直しスタート!『今後の建設産業政策のゆくえ』」をテーマに熊本フォーラムを開催。建設産業に関する最新の情勢を学ぶとともに、経審見直しについて、改正する側と経審を受審する側の双方から活発な議論が交わされた。後援は(社)熊本県建設業協会、(財)建設業振興基金、(株)西日本建設新聞社など。
 中央建設業審議会ワーキンググループの経営事項審査改正専門部会で議論が進められている経営事項審査の見直し。完工高(X1)ウエイトの引き下げや技術力(Z)と社会性(W)の引き上げなど、見直し案の方向性が示された。実現すれば、平成11年以来の大幅改正になる。このほか一般競争入札と総合評価方式の導入拡大や、波紋を投げかけている業界のすみ分け論…。公共事業が減少する中で大きな動きが加速し始めた今、これを建設業者はどう捉えどう対応すればいいのか―。
パネルディスカッション

坂田氏:本当の建設業の姿がみえる経審を
大森氏:いろんな声を聞いてすみ分け検討

――経営のあり方を方向付けると言われている経審制度について、実際に建設業を経営されている坂田さんの意見を伺いたい
 坂田 1年間の企業経営が対外的に評価され、ランクが決まってしまい、厳しいなといつも感じている。利益を出さないとランクは落ちていく。商店などの場合は節税というか、税金を少しでも払わずに済むためにはどうすればいいかとか考えられるかも知れないが、建設業の場合は、たとえ赤字になりそうだとしても、なんとか工夫しながら黒字経営にするなど、無理をして税金を払っているところが多いのではないか。
 一番の疑問は、大企業も小さな企業も全国一律の審査内容であること。どこで線引きをするかは議論が分かれ難しいと思うが、すみ分けが必要ではないか。
 経審のY点、経営状況分析の収益性の中に単年度の結果を出すところがある。継続して事業を進めるのが企業。数字的には厳しいが2年後、3年後の利益確保を睨んで、今年は、事業拡大に向けた布石を打つために受注を少し遅らせることもある。しかし単年度の結果のみ。将来の構想が数字で表せないにしても、どういう思いでこの数字になっているのかを理解してほしい。
 本当の企業の姿が見られるような経審に改正にして頂ければありがたい。
――すみ分け論という話が出てきたが、これは、大森審議官が1月に私見として明らかにされたもの。審議官にコメントをいただきたい
 大森 知事会で1000万円以上を全て一般競争入札にしようという話が出てきたが、急に一般競争と言っても、都道府県、市町村の実態を見ると、一つのランクに200も300も業者が入っている場合もある。そんな中で単純に一般競争を実施すれば混乱が起きるのではないか。
 このすみ分け論の話が出てから土工協が全会員企業146社を対象にアンケート調査を取り、数10社の受注状況も調査した。それを見ると、小さな工事まで大手が取っている。資本力で席巻していったのでは、そうでなくてもがたがたになっている地方にとっては、雇用も含めより落ち込み、災害が起こっても対応出来なくなる。
 地方業者も能力がついているのだから、通常の工事は地元業者が受注して、大規模な工事だけ大手が入ればいいのではないか―と。すみ分けの境目を24億円と提案したためにいろんな議論になってしまったが、本意はそういうところにある。
 もう少しこれを煮詰めて、具体的な境目をセットするのかどうか、公共団体の動きや、大手・中小のいろんな声を聞きながら考えていきたい。
――経審制度が経営の誘導策になっている。11日に経審見直しの方向性が示されたが、行政書士の立場からみて弓削さんは
 弓削 決算が近付くと「赤字になりそうだけどどうしたらいいでしょうか」と相談を受け、「赤字で無理して税金を払うこともないから、実態・現実で勝負して下さい」と答えている。
 幸い長崎県も長崎市も赤字企業に対して入札時に何らかの差を付けることはしていないので、そう答えているのだが、業者にとっては、赤字に「強迫観念」があるように感じる。
 客観的にやろうとすれば、経審による点数・ランク化も、そうならざるを得ないのもわかるが、何かが違う。建設業者がやりたいことも出来ないような窮屈なかたちになっているのかなとも感じる。
――制度設計をする立場からみた六波羅さんの意見は
 六波羅 経審は客観的にとられるデータによって示された企業評価のデータベースであり、それを利用する人がいろんなかたちで利用すればいいのではないか―というのが私の基本的な考え。
 評価項目にウエイトをつけたかたちで算出しているが、この基本型をそのまま使うだけでなく、地元の業者にも出来るような工事の場合、発注者によっては、地域貢献など社会性を大きく評価することがあってもいいのでは。Y点を大きく評価してもいいし、いろんな考え方の中で弾力的な運用を考えるべきだ。
 中建審において改善される方向で検討されているが、問題となるのはW点。客観的に算出できる数字を積み上げて並べており、取れるものを並べた感じがする。各評価項目の意味するところを明確にする必要がある。

弓削氏:業者にとって窮屈な経審制度では
六波羅氏:弾力的な経審運用を考えるべき
吉永氏:工事進行基準での評価にメリットも
大森氏:社会貢献活動を重視し評価したい
坂田氏:努力した企業までも淘汰される現状

――経審の中で最もウエイトが大きい完工高について、これを工事進行基準にしたらどうかという意見をお持ちの吉永さんに、詳しくお聞きしたい
 吉永 完成基準の場合は、年末や年度末など工事の完成時にしか収益があがってこないが、進行基準の場合は、現場の工事の進行度合いに合わせるため、原価が見えやすく、現場と経理の感覚がリンクして経営感覚に近い。
 また、実行予算が立てやすく、コストコントロール能力がアップする効果もあるし、粉飾防止にもつながる。工事完成前に税金を納付しなければならなくなるが、不良資産を減らす効果もあるのではないか
――重層構造の業界だと言われているが、自ら元請として仕事をされている坂田さんの意見は
 坂田 赤字覚悟で請け負うこともあり、その場合は、専門工事業者に無理難題を押し付けてしまいがちで、特に1人親方さんの場合は団体交渉力が無い。最初の受注金額が最後まで響いている。
 何でも競争がいいという風潮になっており、予定価格に近ければ税金の無駄遣いだとすぐたたかれるが、実態を知っているんですかと問いたい。向こう三軒両隣の精神があり、蹴落とすなんて考えない。共存共栄が談合につながるのも承知しているが、日本古来の良さが必ずあるはず。
 私たちは常に地域の防災に関心を持っており、水俣豪雨災害を教訓に防災体制を整え、大雨や災害があったら率先して地域を回っている。また、先日、子ども達の安全を守ろうと子どもSOS活動を、警察、市、町らと協定を結んだ。こうした安全安心なまちづくりに貢献していることをもっとわかって頂きたい。
 価格と総合評価をかみ合わせ、プラス地場の社会貢献を加味したものが旨くできればと常々思っている。
――社会貢献活動を力説されていたが、これを政策担当者がどのように捉えているのか。大森審議官にお尋ねしたい
 大森 我々も社会貢献活動を重視しており、経審や総合評価制度の中で生かしていきたい。建設業はある意味手抜きがしやすいものでもあり、信頼できる企業にお願いをすることは欠かせない。
 総合評価といっても、単純な工事の場合、それほど技術提案で評価することもなく、ある面総合評価という名を借りて、信頼のある企業にお願いをするシステムで、入札ボンドもしかりだ。価格だけの市場原理ではうまくいかないことは重々承知している。
コメンテーター
コーディネーター
パネラー
――建設業者も元請専門と、施工専門にわかれるべきだという考えについて坂田さんは
 坂田 電子入札・電子納品がはじまり、ある程度の投資と人員の配置が求められているが、元請で入札に参加してどれだけ受注出来るかを考えた時、投資をしただけの価値があるのかというのもある。
 経費的に無理が見えている中で、いつまでも元請にこだわって結果的にダメになったというよりは、工事専門に特化する。例えば側溝工事では誰にも負けない安くて早く良質な施工が出来るということであれば、元請から、その会社に任せようと声がかかる。そこに会社の生き残りが図れるのではないかと。
 倒産して失業しても同じ地域で他の産業に行くところがない。職を求めて地域を出ていき、人口が減り地域が疲弊するのが一番怖い。雇用の受け皿という面と、自治体財政の健全化という面と両方を見ながら進めていかないと疲弊は続いていく。
――公共事業が減り過ぎているという話しがありましたが、それぞれの考えをお尋ねします
 大森 以前、道路公団の民営化に関わっていた時に、よく例に出していたのが東九州道路。私が熊本県庁にいた時、知事会が鹿児島県指宿市であって、当時の平松大分県知事が7時間かかったと言っておられた。
 これは首都圏や近畿圏の道路事情と比べておかしいのではないか。少なくともひととおりのベーシックな整備は必要ではないかと、申し上げていて、新直轄方式の仕組みなどに取り組んだ。今の減り方は異常だし、整備しなければいけないところはいっぱいあるんじゃないかと思う。
 ただ、2点申し上げておきたいことは、成熟社会の中にあってGDPに占める建設投資の額は、どの先進諸国も一定の線におさまっているということ。もうひとつが、財政面から使える枠が減った時、社会保障費と公共事業費のどっちに予算を出すかといったら福祉に回さざるを得ないということ。この2つを加味して、今後の企業行動を考えていく必要がある。
 また、元請下請の話のなかで、技術者を持つのも大変だという意見があった。工事を請け負うと直接雇用の監理技術者を貼り付けておかなければならないが、これはある面、本当に合理的かと言ったら、人によっていろんな意見があると思う。
 だからといって、こういう制度があるから下請に変わるというのはちょっと違う。もしそうならば制度そのものがおかしい可能性もあるのだから。そういう一つ一つの矛盾をどう解いていくか、この数年間で検討しなければならない。
 六波羅 地域の雇用確保について坂田さんが話をされていた。雇用確保の重要性は疑いもないことだが、公共投資の将来がそんなに明るくなく、供給過剰が続いている中にあって、どうやって雇用を確保するんだと。
 ひとつの手がかりとして申し上げたいのは「現場の生産性をどう上げていくか」。仕事のやり方を工夫すれば利益が少しでも残る。経営コンサルタントなどが指摘しているように、知恵の出し方がまだ足りないのでは。
 現場に携わる発注者、設計者、元請、下請、資材供給会社。全員が施工情報を共有して、お金、時間、人の面において無駄のない施工計画をたてれば、今と違った生産性が実現できるのではないか。発注者の役割が非常に重要だが。そうすることによって、パイは減っても、赤字にはならないし、雇用もある程度は維持できる。
 坂田 全ての会社が生き残れるようにしてほしいとは思っていない。生産性を上げたり努力をしているところまで淘汰されて潰れていく今の実情をわかってほしい。
 生産性を上げようといろんな努力をしている。従業員は家族みたいなものであって、人員整理は経営者として非常に厳しく、「いつまででいいから」と言うのは断腸の思い。そこまでして何とかがんばっているのに倒産してしまうのはおかしいと声を大にして言いたい。
 また、企業が倒産しても従業員には責任は無い。そこを何とか救うために、企業の再編とかについて助けて頂きたい。
基調講演

今後の再編・淘汰は不可避 大森 雅夫 国土交通省大臣官房審議官
 全産業の利益率が3・2%に対し建設業は1・5%と半分以下。仕事が減っている中で、人件費とか様々な固定費を一生懸命に削りながら何とかやっている状況だといえる。政府投資の依存率が高い地方圏ほど厳しい状況だ。
 この数年は、談合の決別宣言などが要因ともなって公共調達での価格競争が激化。昨年は国交省の直轄工事でも落札率が46%というのも発生し、50、60はざらにあるという状況で、昨年4月のダンピング対策を行い、それでも全く効かないということで12月にさらに対策を打ち出した。低入札では取れないというようなものを。
 しかし、現時点でも直轄工事の落札率が90%を切っており、土木工事を中心とする利益率が非常に減少している。一般的な工事についていえばローリスク・ローリターンにならざるを得ない。赤字受注は景気回復に繋がらないということがあって、それらに配慮する姿勢は変わらないが、そうは言っても利益競争は厳しく、業界全体としては再編・淘汰は不可避なものである。
 経審見直しの大きな目的は「公共工事の企業評価における物差し≠ニして、公正かつ実態に即した評価基準の確立」にある。
 完工高が落ちると次の経審に響いてしまうという人もいる。だったら完工高の割合を減らしてみようとか。
 誘導策という側面もある。グループ内再編や持ち株会社など、企業の経営の自由度を阻害しない視点を入れながら見直していきたい。技術提案が出来る人間がいないと総合評価が出来ないし、入札ボンドも財務諸表が悪ければ入札に参加できない。そうした業界の再編を促す効果もある。
 しかしながら、公共調達だけでなく、民間市場を含めた建設市場全体でも考えなければならない。公正な競争環境整備とあるが、法令遵守の徹底を真剣にやっていこうと。仕事が少なくなっているなか、専門工事業へのしわ寄せなどいろんな問題を抱えており、民間市場も含めて元下の対等な関係の構築を含めた法令遵守に努めていきたい。
 また元下だけでなく、発注者と受注者の関係も同じ。どんぶりの中で「これだけの利益出ているんだからこれぐらいやれよ」といった感じで、発注者が元請にお願いすることも多いと調査で出ている。例えば訴訟とか何らかの大きな動きの中で発注者を目覚めさせることも必要ではないか。
 次に共通基盤整備。いわゆる人の問題がある。560万人ぐらい建設業に従事しているが、42・9%が50歳以上で、限界産業に近付いている可能性もある。首都圏は民間市場が伸びて型枠工や鉄筋工などは不足しているのに、元請が厳しいので下請の労働者にお金がいかない。だから若い人が入ってもすぐに辞めてしまう。これをなんとかしなければならない。
 行政なんてほとんど何の力にもならないと私は思う。専門工事業で固まって賃金形成力を持つしかない。アメリカでうまくいっているのはユニオンがあるから。日本で同じようにうまくいかないにしても、団結して賃金の交渉力を持つことが重要だ。他県でそういう具体的な動きも出てきており、できるだけ支援をしていきたいと考えている。
 すべての労働者の処遇をあげるのは難しいから、中核となる基幹技能士を対象にするとか。当初渋い顔をしていたゼネコンも次第に理解を示すようになってきた。専門工事に従事する基幹技能士がだんだん少なくなって、思いどおりの仕事が出来なくなっているのが背景にある。

[目次]