建築フォーラム〜僕らの学校〜

平成17年11月10日新聞掲載
 有限責任中間法人・熊本県建設コンサルタンツ協会(中村秀樹会長)の創立5周年を記念した「技術研究発表会」が4日、熊本テルサで開催され、「今後の建設コンサルタントのあり方」をテーマにパネルディスカッションが開かれた。討論会に先立ち、同協会の顧問で熊本大学工学部・小林一郎教授が「地元コンサルタントに望むこと」と題して基調講演。地方おける技術者のあるべき姿を示した。討論会では、小林教授をコーディネーターに、熊本県内の産・官・学を代表するパネリスト5氏が登壇。現状を見据えつつも将来の技術者としてのあるべき姿を模索し、それぞれ持論を展開した。
基調講演 「地元建設コンサルタントに望むこと」
熊本大学工学部(工学博士) 小林一郎 教授
 私は今、「景観デザイン」と「3D−CADによる設計・施工」について研究を重ねているところです。最近では長崎県佐世保市の日野川拡幅工事(延長40b)で橋梁の景観デザインの仕事を手がけました。長崎デザイン会議にも参加しアドバイザーとして様々な案件に対して関わっています。景観デザインを通して言えることは「人がどう集まって、色んな想い出を創ることにいかに寄与できるのかが、土木の仕事」だと言えると思います。日野川の橋梁拡幅工事を通して見えたものは、景観デザインは化粧ではないこと、全体のコンセプトを誰が決めたのか(責任所在の明確化)−ということでしょう。
 公共空間を創っていくことは、人の心を創っていくことに近い。そういう意味では我々は地域連携の器を創る仕事に携わっているのではないか。新しい土木は果たして興るのか。その時地方のコンサルタントは必要か。私は本来、橋梁工学を専門にしていました。ただ九州にはそういった専門家はたくさんいる。ちょうど20年前に古い私が消えた日があります。技術者の教養として土木史の必要性を考えました。誰もまだやっていない。同時にフランスにおける土木技術のあり方をみたとき、景観デザインの必要性、電子情報活用(CG)の面白さに惹かれました。実は技術革新と美があれば橋は売れるんですね。デザインを土木にどう取り入れていくか。こうして今の研究にたどり着いたような気がします。
 若者を惹きつける土木を創らなくてはなりません。現在の土木は国レベルで明快な目標を示していません。コンサルタント業は国家の請負業だとも言えます。そうすると各自の特徴を出しつつ、個性を売るしかない。ここでフリッツ・トート博士の言葉を紹介しましょう。「風景と土地はふるさとだ。技術者は文化価値が生まれる構造物をデザインし建造する義務を持っている」。本当の公共事業というのはこの言葉に帰着するのではないか。技術者はその目標に向かって新たな自分を創造する。そういう魁を熊本で創る。そうすることによって若い人たちが土木の担い手となっていくのではないでしょうか。

プロフィール
小林一郎氏
略歴:1951年 大分県別府生まれ
   1976年 熊本大学大学院工学研究科修士課程土木工学専攻修了
   1992年 フランス国立リヨン中央工科大学(Ecole Centrale Lyon)        
       個体力学教室客員研究員(1994年3月まで)
   1997年 熊本大学工学部環境システム工学科教授
学位:工学博士(京都大学)
受賞:1997年(社)土木学会論文賞
   (「世界初の本格吊橋トゥルノン橋の建設について」)(土木学会)
   2002年 Teaching Award (熊本大学工学部)
専門:設計論、景観工学、土木史
主な著書:「風景の中の橋」、槙書房、1885.5
     「建物の見方・しらべ片−近代土木遺産の保存と活用」(共著)、ぎょうせい、1998.7
     「景観と意匠の歴史的展開−土木構造物、都市、ランドスケープ・デザイン」(共著)、信山社、1998.8
最近の社会活動:熊本県・坪井川遊水池利用計画検討委員会・委員(2002-2004)
        国土交通省・白川景観・親水検討委員会・委員長(2002-)
        日本道路公団・延岡線「御船〜矢部間」技術検討会・委員長(2002-2003)
        熊本県・CALS/EC推進協議会アドバイザー(2003-)
        長崎県・美しいまちづくりアドバイザー(2003-2006)
        美濃市・美濃橋保存・修復・活用検討委員会・委員(2004-2005)
        国交省交通省・立野ダム・景観アドバイザー(2005-2006)
        熊本県・熊本駅周辺地域都市空間デザイン専門家会議・委員(2005-)
パネルディスカッション「今後の建設コンサルタントのあり方」

 小林 土木事業の現況はどうなっているのですか
 猿渡 公共投資は平成7〜8年がピークで、その約6割の規模で進んでいる状況です。平成17年度の土木部の予算は、1000億円ですが、限られた予算を有効・効率的に使うために17年度からコスト改善プログラムに取り組んでいます。平成21年度の目標値を15年度のコストと比較して、15%削減しようというもので、イニシャルコストは高くてもライフサイクル全体で縮減につながればOKという考えです。総合的なコスト縮減を考えれば、工事段階より設計段階で縮減策を盛り込むことが効果的で、実施設計より概略設計で、設計前より構想段階でやることがいい結果につながるようです。
 小林 上流の段階でコスト縮減を考える時、では誰がどう担っていくのか。外部からの目で建設コンサルタントグループをどう見ていますか。
 徳永 熊本で営業をやっていく中で、地元のコンサルタントが設計した方が、製品の紹介もしやすくコスト縮減につながり、新製品についても早い段階で取り入れてもらえます。以前、関東のコンサルタントが手がけていた都市計画で製品の相談を受けましたが、熊本にはありませんでした。中央にしかないんです。そうすると建設コスト面でよい結果につながらない。地元のコンサルタントが頑張って、地元の仕事をやってもらうことが私の願いです。
 小林 地域づくりの中で熊本のコンサルタント業をどうみていますか。
 坂元 地域がどういう風になっていくのかというベースの中で、自分たちがやっていることが将来どうなっていくのかが見えてこない。それをコンサルタントに出してほしい。それにはどういう技術やサポートが必要か。コンサルタントがやるべきことを創り出して、提案していく。最近、阿蘇ではアンケート調査などを関西のコンサルタントがやっている。なぜ地元がやらないのか。町や地域が望んでいることをキャッチして逆にそれを提案していく。そういう姿勢が必要じゃないかと思います。
 中村 我々の協会は、約半分の仕事が県外のコンサルタントに流れていたことが設立の背景。自然の怖さ、美しさは地元が一番知っている。これまではそれを示す表現力、プレゼンテーションの力がなかった。それを身につけていかなければならない。
 小林 必要なことをいかにアピールしていくか。熊本にいかに生きるか。九州ぐらいで仕事をとってくるためにはどうするのか。そのための優秀な人材をいかに集めるか。様々な問題が表面化してきます。
 青山 我々は今、NPO法人熊本技術士の会を組織して人材の育成を図っています。有資格者を育てることを目標に講習会なども行っており、九州全体から見ても成果が上がっているようです。技術士は専門職なので、どんどん増やしていき、良質で高度な仕事が出来る体制を築いていくことが大切だと思っています。
 猿渡 産・官・学の連携も大切だと思います。熊本県では、新技術新工法活用システムを活用し、コスト縮減と県内産業の元気づくりを支援しています。品確法の適用で価格競争から総合評価へと落札の方式も変わっていくかもしれません。それにはコンサルタントの技術力が大きく影響しそうです。熊本県では平成13年度から指名プロポーザル方式を本庁契約分で年に数件やっていますが、16年度からは出先でも出しています。今後はプロポーザルの拡大も視野に入れていくつもりです。提案には地域の精通度、実績がないと無理があります。
 徳永 企業は他社との競争ですし、一歩先を行くことが重要になってきます。いかに安く、良い物を提供できるか。新製品の開発にも力を注いでいます。元気のある会社じゃないと人材は育ちません。
 坂元 県内では県外から多くのコンサルタントがやってきて仕事をしています。今どうゆう仕事があるのか把握して、そこを研究することで新しい仕事につなげていく。そのためにはコンサルティングの多面的な角度から自分たちの企業にいる人材を適材適所に配置する。時間は5年、10年かかるが、それを見据えて若者を育てていくことが重要です。一歩先を行くためには情報を持っている人と接触しなければいけません。求められるコンサル、小回りが利くコンサルを目指してもらいたい。
 小林 本当に地域に根付くことは簡単なことではないと思います。「今をどう生きるか」と「明日をどう生きるか」は当然違うべきで、違うことをやっていかないことには未来がないのでは。

[目次]