熊本城復元整備の目玉事業で、来春の一般公開が間近となった本丸御殿大広間。400年前にさかのぼって当時を忠実に再現するこの大普請の裏側には、多大な努力をした専門工事業の姿があったという。目指したのは、資材、職人とも限りなく地元熊本にこだわること。大工、左官、建具など専門工事の知られざる現場にスポットを当てシリーズで紹介する。
A 左官   (株)カワゴエ(熊本市) 平成19年11月15日新聞掲載
 「矢や鉄砲の弾が飛んできても打ち抜けないほどの厚みがないといけない。それが城壁の機能」。左官を担当した潟Jワゴエの川越一弘社長はこう説明する。
伝統技術者を残すのが我々の使命

 一般的なモルタル壁厚がおよそ25_に対し、本丸御殿は約4〜8倍の100〜200_。復元は@真竹を十文字に編む小舞掻き(こまいがき)A土と藁を交ぜて塗る荒壁塗りB不陸部分を直すムラ直しC砂の割合を多くした土を盛り、最終的に平滑にする中塗りD貝灰にふのりを混ぜ合わせ塗っていく上塗り漆喰―の5工程で、手間と根気のいる作業となった。
 材質にもこだわりを持ち、小舞掻きの作業で使用された外部の丸竹(3a)と内部の割竹は、素性が良く調達が困難とされる秋伐りの真竹を採用。美しい白色が目を引く漆喰の壁も、通常使用される石灰ではなく、カワゴエが長年熊本城の工事に携わる中で最も適していたというアサリ貝の貝灰で仕上げている。
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 工事最盛期には、40人近くの職人がいたという左官現場。70歳代のベテランから20歳代の駆け出しまで様々な世代や技術を持つ職人がいたが、川越社長は、「今回の工事は当時を忠実に再現することで、自分のスタイルを出しては駄目。伝統技術を皆で確かめ合い作業を進めていった」と現場の様子を語る。
 壁工事のほかに、左官技術の見せ所がある。闇り御門上部の唐破風(からはふ)に塗られた黒漆喰と、懸魚(げぎょ)の製作だ。
 黒漆喰は、松えんを漆喰に入れて半年ほど寝かせて黒色を出す。微妙な配合で善し悪しが左右され、ベテランの職人が成せる技。材料の配合は、料理職人のレシピと同じで、もちろん企業秘密。
 懸魚は、屋根の破風に取りつける装飾品で、漆喰を手作業で肉盛りしながら紋様を形取る。携わった職人の中で、これを成し遂げることができたのは、たった一人しかいなかったそうだ。
 「職人が手掛けた技術が、また100年、200年後に伝統技術として残っていく。職人達は力の入れ方も責任感も人一倍で、世代間で技術の伝承リレーも行われた。我々は熊本に後継者を残していくということをいつも心に刻み仕事に臨んでいる」。川越社長は、自社の使命感に誇りを感じている。





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