くまもと地域基盤政策研究所                         平成22年1月2日新聞掲載
 国の平成22年度予算の概算要求は公共事業関係費を前年度比14%減と過去最大の下げ幅まで絞り込んだ。こうした社会変化の中、経営のあり方も変らざるをえない。今まさしく『経営のあり方』が問われ試され、新しい経営のスタイルが求められている。県内建設業にどんな活路があるのか。くまもと地域基盤政策研究所の山本祐司運営委員長(山本建設梶E熊本市)と同研究所の「入札制度調査研究委員会」の尾上一哉委員長(株上建設・山都町)に地方建設業の現状、今後の取組み方法など様々な課題について意見を求めた。



「新しい経営スタイルを」
 山本 祐司氏 【運営委員長】

■労働賃金
 建設労働者の賃金は、この10年で3割以上の減少となり普通作業員で1万1千円代になってしまいました。年間実労働日数は、220日程度のとなり、年収で250万円程度です。
 そんな中で、公務員と公共事業の工事で働く国民、県民、市民に賃金的な違いが必要なのでしょうか。
 公務員の基準賃金は、従業員100人以上の企業を参考に算定しています。
 将来の熊本の為に志高く働いていただければ良いですが、職員の人に話すと、賃金がカットされて安い様な話をされる人がいます。同じ公共費用で生活している建設労働者の賃金に比べれば多くのの給料を取られているし、世の中の景気が良くならない限り税収は増えません。
 事業仕分けを見て、事業仕分けも必要だけれども、日本の未来が見えません。政治家や公務員が決まりきったことしかしないなら、政治家や公務員が特別で有る必要が有るのでしょうか。
 事業をする為に、税金を徴収します。政治家や公務員の人達に国や地域の将来を考えて全力で働いて欲しいし、自助、共助、公助の中で建設業界の人達もがんばれし労働で得るお金こそ尊厳があると思います。
 建設労働者は暑い時(気温35度、鉄筋等の組立て現場では、45度〜50度)、寒い時(寒風が吹き、夜間作業で体感気温マイナス10度以下)そして、雨や風、埃、そして汗に濡れて仕事をしています。公務員の人や一般市民の人が、そんな中で働けますか。国民、県民、市民としての基本的な人権(平等=公務員と建設労働者は同じ公共予算で生活しているのに平等でしょうか)。私は、入札問題は労働問題だと思いますがどうでしょうか。
■適正単価
 公共事業の適正な単価はどうなのでしょうか。利益が大きく出ていた時にその利益はどこに行ったのでしょうか。下請けに対する請負や材料代に対する適正な金額、確実な支払いが行われてきました。
 そして、最終的には税金として公共団体に納税されています。利益だけで見た時は、多分公共団体が一番大きな金額を受取っていたのでは無いでしょうか。
 少なくとも最低制限価格で、普通の工事をしたら赤字が出ないような事業費の設定が必要だと思います(現在は大分改善されてきたと思います)。
■環境取組み
 CO2削減が叫ばれています。確かに地球温暖化は大きな問題です。そして建設企業関係が参加できるCO2削減等が有るでしょうか。
 新聞やニュースに興味のある人はご存知だと思いますが、森林における植林や間伐の実施など、都市部における温暖化対策として屋上緑化や壁面緑化などの仕事が起こってきます。
 環境が変わります。それは、今までとは違う意味でのより良い環境を作る必要が出てきたこと、社会資本整備が進み建設事業の必要性が下がり公共が減少してきたこと、緊急性のあるものが減少してきたこと。
 それでは地方の建設企業として最適な取り組みはどうでしょうか。それは、まず身近にある林業に関係する仕事(間伐、植林など)を通した環境取引による仕事つくり・民間家屋への太陽光発電や緑化対策・新しい電力利用としてのスマートグリッドへの参加(特に電業関係)・都市のヒートアイランド対策への技術開発と参加―など、視点を広げて見てください。新しいマーケット、可能性、そして自分たちが世の中に貢献しながら新しい仕事を見つけることが出来るかも知れません。
■合併問題
 建設関係では合併が推奨されており、経営審査の加点の対象となります。それが進まないのは何故でしょうか。
 思うに、相手企業の内情がハッキリしない事、合併のメリットデメリットが分からない事、合併により社長が一人になり今まで社長をしていた人の職が無くなる(普通の仕事人には戻りにくい)為に決断しにくいのではないか。
 過当な競争を無くす為には、建設企業の数は減さなければならと思います。では、どこまでが過当で、どこまでが適正な競争なのでしょうか。建設関係者と一般の国民との間には大きな隔たりがあるような気がしますが、それが今の現実だと思います。
 その中で合併を考えるとすれば、経営審査の加点が大きな要素となり建設企業以外の企業との合併(M&A)的な合併は何処まで加点が認められるのでしょうか。
 どちらにしても、適正な企業数まで合併、倒産、自主廃業などが続いていくものと考えられます。それに併せた企業づくりに主眼を置いた、企業運営が求められると思います。
■新分野進出
 建設企業が行える事業があるでしょうか。農業、林業、小売、旅館(ホテル)、IT、インターネット、環境対策関係などなど色々有りますが、建設企業が参入して利益を出せる事業があるでしょうか。実際タッチして見ないとハッキリ分かりません。
 農業分野では、食料の需給率を上げるために、今までの個人レベルでの農業への取組みではなく企業的な機動力、管理の徹底、販売先の構築、品質の向上研究など農業の競争力向上が必要です。建設企業が参加する利点は、建設業で培った品質管理、機械や人の管理によるマンパワーの集中、そして大規模な工事からくる大規模農業への対応力などです。
 リスクは、販売ルートの構築(最初から構築しなければいけない)、売れる農産物の生産(品質、生産量、価格競争力など)その他、生産過剰時の対応、優秀な農業技術者の確保もリスクに成ってくると考えられます。
■海外進出
 前原国土交通大臣は、「大手ゼネコンは世界で仕事をしなさい。地方の建設企業は、競争の中で仕事をしてください」と言う意味の発言をされました。12月の全国紙などでは、ドバイで多くのゼネコンが負債を抱えようとしています。大手ゼネコンとして、これから益々国際化が求められると思いますが、建設企業として大きな時代の変換点に来ています。日本のマーケットは縮小して来ています。多分、今後も少子化や民主党の政策により縮小を続けるでしょう。そんな中で建設企業が目指すべき国際化とはどんなものでしょうか。
 大手ゼネコンには、世界をマーケットとして事業活動をして頂きたいのですが、今までの経営方針や営業体制で戦えるでしょうか。交渉能力のある多くの営業や管理者が必要になってきています。現在の日本の発注(入札)形態で有れば、今までのように設計に対して一方的に受注、変更などが行われるのではなく、設計の内容や変更についての甲乙協議を確実に行う必要が出てきています。
 特に、国外では契約の内容、甲乙の履行基準、一つひとつの協議の確認、そして変更契約の確実な実行の確保を行い、集金業務で初めて完了となります。国内の公共団体であれば、ほぼ確実に集金出来るでしょう。しかし世界を相手ではそうは行かないようです。
 ゼネコンに世界のマーケットで活躍できる基盤を作って欲しいし、世界の中で仕事をして欲しい。道路、鉄道、上下水道、都市開発、環境対策、ダム、災害対策(河川、海岸堤防)港湾などあげれば限がありません。
 そしてもし良ければ、その一部を担う形で中小企業が外国に進出するきっかけを作っていただければと思います。
 地方の中小建設企業は、独自の企業が持っている経営基盤や技術力だけでは、世界に出ることは難しいと思います。まず、ゼネコンの下請けとして、他に、それぞれの企業が持っている特定の技術や製品を持って、進出したい国、都市、地域で必要とされていることを行うことで可能性が出てくるのでは無いでしょうか。
 それでは熊本で世界に出せる様な技術があるでしょうか?。有ります。
 新しい基礎杭の技術、アスファルトの現場リサイクル技術など、NETISなどに登録された技術の多くの部分に中小建設企業の技術が有ります。現在の日本に必要ですが公共投資の減少に伴い活躍の場を無くしています。成長著しい東南アジアやアフリカでは、現在、急激な社会資本整備が必要と成って来ています。その為には、色々な状況に対応できる技術と能力が必要と成ります。
 日本は、通常の社会資本整備だけでなく、災害時の緊急対応、老朽施設の補修・補強、リサイクル・リメイク技術など、多くの優秀で有効な技術が有ります。それを世界で使うことにより世界に貢献することになり、企業としても存続出来、発展を続けることに成ると考えています。
 その他にも、ベトナムのホーチミン市では、寿司バーや大阪焼肉の店、その内装や運営などで1日100万円を売上げています。日本で行って来た色々な業種の仕事、都市の自動車数の増加に伴う駐車場経営、人口の多い都市での渋滞対策、交通安全対策、日本のコンビニも世界に進出しようとしていますし、外国人が経営する豆腐製造企業は世界展開を考えています。
 国内の中小建設企業もそれぞれの地域で色々な事業を行っています。資金や人材の乏しい中小企業が国際化を考える場合に建設業を主体としていくのか、自分の得意な分野で行くのか、それぞれの地域で必要とされている事業で参入するか、大いに検討する必要が有ると思います。
 中国が、アジア地域やアフリカに進出しています。その手法は、中国政府、企業、そして華僑が一体となり、中国政府の資金支援や施設提供等を足がかりに中国企業が進出し、華僑のネットワークが中国人の世界進出の後押しをしています。日本人と違い華僑の人達は、同じ中国人に対して地域への進出に色々な協力をして手助けをするそうです。さて、日本人、日本政府はどうでしょうか、どうあったら良いと思いますか。経済は、企業が行うこと、確かにその通りです。でも考えて見てください。14億人と言われる人口、高い成長率・経済力、華僑経済に見られる国際ネットワーク、その様な国、企業と如何に渡りあったら良いのでしょうか。渡り合う必要は無いのかも知れませんが、生き残る為に何処までする必要が有るのでしょうか。
 日本は、土地面積、資源、人口どれを取っても世界一になれる要素は少ないと思います。だからこそ世界の小さな国々、弱い国々に取って有効な協力が出来るのではないでしょうか。それは、和の心、お互いを大切にする心、省エネ技術、環境技術、情報技術等々、一番ではない日本、一般的に言われている押しの強い中国の人達に無い周りを考えて動く性質、調和の性質が世界を幸せに出来るのではないかと考えています。世界の明治維新が来ることを祈って。
■建設業将来像
 今の建設業界では少し異端かも知れませんが、今後の建設業界が少しでも良くなる為には、まず一歩を踏み出すこと、そして今の状況は、明治維新、終戦後の状況に比べればまだ、良いのではないでしょうか。それでも、社会資本整備が進んだ現状では、国内で今までの様な公共事業が出来ることは無いでしょう。
 「建設業受難時代」。しかし視点を変えると、新しい50年の発展の始まりの様な気がしています。それは、視点を何処に持つかに拠ると思います。
 国内の今までの事業の中で考えるのか、その他の事業も含めた国内で考えるのか、国内をベースとして成長著しい地域・国を含めて考えるのか。今、日本の建設業に夢は有るのか、民主党政権の政策、社会資本整備率の向上、津々浦々まで一応の整備が終わった現実などを見るとハッキリした夢は持てません。
 しかし、今の国のやり方は本当に正しいのでしょうか。民主党の小沢幹事長のやり方が本当に正しいでしょうか。日本国は、三権分立(司法、行政、立法)が基本です。小沢幹事長の独裁政権ではありませんし、正しいことを言う訳では有りません。民主党の議員に聞きたい、日本国をどうするのですか。自助努力として建設企業が将来を見据えて努力する必要は有りますが、そうであれば、政治家の数は今の様に多く必要でしょうか、将来の夢を語れない、新しい国、地域について語らない、語れない行政マンが増えている様な気がしますどうでしょうか。政治家には日本の将来の夢・姿を、行政マンには地域・職種で希望ある未来の姿を、そうなれば業界も将来に夢持てると思います。







「競争入札制度全廃へ」
 尾上 一哉氏 【入札制度調査研究委員長】

●地方建設業の現状
 建設業は未曾有の冬、氷河期を迎えたようです。
 しかも入札制度によって、建設業者は国民としての人権を喪失したままです。建設業者の仕事の奪い合いは、芥川龍之介の蜘蛛の糸を思わせます。投げられた小判に群がる亡者のようでもあります。社員の給料の保証などまったく無くなりました。
 しかし、地方建設業者がどのように苦境を訴えても、一般国民は冷ややかです。なぜなのでしょうか。建設業者は自身を見直し、国民が白眼視する問題に気づき改める努力をしていないからでしょう。建設業の役割と必要性の認識が曖昧で、自身の人権の自覚が無いのではないかと思います。
 国民にとって本当に必要な地方建設業者なのか。自身を見直さなければ凍死は避けられないと思います。
●地方建設業の役割
 天災により破壊されたライフラインを緊急に復旧し、国民の生命と生活を守るのは、国内全域の地方建設業者です。技術者や技能者を教育訓練し、特殊な機械や重機、運搬車両などを常に整備し保持し、非常時に備えています。
 外国の攻撃からは自衛隊が国を守ってくれます。火災からは消防署・消防団が国民を守ります。同じように、天災から国土を守るのは防災隊としての地方建設業者なのです。
 自衛隊も消防署も防災隊も、国民にとって不可欠かつ維持存続されるべき重要な存在であることを、建設業者は強く認識すべきです。
●半農半建
 地方の建設業は、その地域の住民を社員としています。なかでも中山間地や海岸地方では、社員の家業のほとんどは第一次産業です。しかし生計は成り立たず、建設業などで副収入を得ることで地域に居住し、家督をつないでいます。山林や田畑を守り、地域防災の要である消防団を務め、地域づくりに参加し、過疎を食い止め、各地各様の地域文化の継承を社員は担っているのです。地方建設業は地域の雇用の重要な受け皿として、なくてはならない存在だと考えます。
●水・食料の自給
 中山間地の農地は、ほとんどが棚田です。棚田は膨大な国内食糧生産基盤であり、食糧自給率向上のための重要な社会資本です。しかし、管理を放棄すれば豪雨時、上から下まで一気に崩壊する危険があるのです。半農半建の社員は、その棚田の管理者でもあり、安全・安心な産品生産のノウハウも維持しています。
 また、棚田は森林と同様に「緑のダム」です。豪雨の急激な流下による洪水を防ぎ、ゆっくりと地下浸透させます。世界でもまれな、そのまま飲料可能な地下水を育むことにも、建設業とその社員は深く関与しています。
●雇用と京都議定書
 公共投資が激減する中、海外・異分野への進出転業などが推奨されています。しかし、ほとんどが既存分野への新規参入もしくは侵略であり、新たな競争や雇用不安は否めません。
 そのような中、日本が宣言している「温室効果ガス25%削減」は、地方建設業から溢れる雇用の巨大な受け皿となるべきです。森林吸収促進のためには、訓練された作業員が大量に必要とされるからです。
 採算が合わないとされている森林整備に、国際間排出量取引差額を引き当ててでも実施すべき、付加価値の高い事業だと考えられます。
 地方建設業は国の「緑のダム構想」による雇用確保の準備を急ぎ、混乱する社会から社員を守る責任があります。バイオマス活用経済の導入だとも言えます。環境経済の進化と比例して豊かな自然環境が復元されていく概念は、産業革命の可能性も秘めています。
●社会資本
 公共事業で生き残ろうとしている建設業者は「社会資本」の概念を根本から考え直す時期に来ているでしょう。
社会資本は半永久に利用されるべきです。500年先でも作り直す必要のない技術力、極限のメンテナンス・フリー、そして最小限のライフサイクルコストが要求されます。また、地球環境への負荷を増幅させず人間の生存環境を脅かすようなものであってはなりません。
 社会資本は創建当時の文明の高さを示す産業遺産となり、未来の社会資本計画の指標となります。しかも、それだけの時間を経ても色あせない価値を持たせなければなりません。
 したがって社会資本を創造するものは「人間の創造的才能を表す傑作」を目指しその技術を競う、誠実な建設業者でなければならないと思います。
 「建設業は商売ではない」。「良いものが早く安くできるわけがない」。このことを強く自覚し、国民に宣言し、税金の無駄遣いがないことの理解も得なければならないと思います。
●品格ある虎へ
 「公共工事」は「公務執行」であるような気がします。建設業は公務員の代わりに公務執行を代行しているからです。高いモラルと能力を持ち、納税者の要求に応えなければならないのです。
 しかし日本には、国民同士を強引に争いや犯罪に陥れる、人権を無視した公共調達システムがあると思います。そのような入札制度で造る社会資本が、「傑作」や「良いもの」になるわけがありません。経営事項審査と総合評価システムを完成させ、「競争入札制度の全廃」を視野に入れた公共調達改革しか、世界の中の日本が進むべき社会資本整備の方向はないと思います。
 建設業者もこれまでの低俗な慣習に訣別し、新しい「倫理と環境」を創造し実践し、真に品格ある建設業者に変身すべき時です。
 しかし建設業者の一人ひとりが、自ら命をかけて変身しない限り、周りの誰も支えてはくれません。
 いま建設業は、凍結した雪原に残された放牧牛のようなものです。
 その牛たちにはたった今、自活力と自律力を持った「品格ある虎」への突然変異が要求されています。


[目次]